大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)1128号 判決
一 原告が本件商標権を有すること及び被告が被告商品に被告標章を付して販売し、また、被告商品の宣伝パンフレツトに被告標章を付して展示、頒布していることは当事者間に争いがない。
二 そこで、被告商品が本件商標権の指定商品である化学品及びその容器であるか否かについて判断する。
1 いずれも成立に争いのない甲第四、第五号証、いずれも弁論の全趣旨により成立を認める乙第一ないし第五号証、いずれも被告商品であることに争いのない検乙第一、第二号証、いずれも被告商品の写真であることに争いのない検乙第三、第四号証、当裁判所の検証の結果を総合すると、被告商品の構造及び機能は次のとおりである。
(一) 構造
被告商品は主に以下の部品等から構成されている。
(1) 酸素発生缶
これは塩素酸ナトリウムのクロレートキヤンドルを充てんしたもので、主に次の部品等から成る。
<1> 作動ピン(このピンを引き抜くことにより、ストライカーを作動させる)
<2> ピンストツパー(振動等により作動ピンが抜けることを防止する安全装置)
<3> ストライカー(銃用雷管を打撃する)
<4> 銃用雷管(フアーストパウダーに着火する)
<5> フアーストパウダー(クロレートキヤンドルを加熱し、熱分解を起こさせる)
<6> 断熱材(クロレートキヤンドルが反応を持続するための保温をする)
<7> 吸収剤(初期に雷管から発生する微量の一酸化炭素やその他のわずかな不純ガスを除去する)
<8> ノズル(発生した酸素の出口)
<9> 安全弁(酸素の出口側が閉塞した場合、缶内の圧力が上昇して破裂することを防止する)
<10> 断熱筒(クロレートキヤンドル表面を冷却する)
(2) チユーブ(クロレートキヤンドルから発生した酸素をマスクに導く)
(3) マスク(口に当てて酸素を吸入する)
(4) 巻板(ケース本体を素手でさわれるように断熱する)
(5) ケース本体
(二) 機能
作動ピンを引き抜くことによつてストライカーで銃用雷管を打撃し、これにより得られる熱エネルギーをフアーストパウダーで拡大してクロレートキヤンドルに伝え、クロレートキヤンドルに次の化学反応を起こさせて酸素を発生させる。
2NaC1O3→2NaC1+3O2
右酸素は毎分三リツトル、一二分間にわたつて発生し、チユーブを通つてマスクから吸入される。高圧ボンベ式と異なり取扱いに特別な資格を必要とせず、操作が簡単で小型、軽量であることから、家庭、学校、職場用の救急用品として手軽に使用できる。
2 右の構造及び機能からすれば、被告商品は、塩素酸ナトリウムに化学反応を起こさせる機構、発生した酸素を吸入するための機構、手で持てるように断熱する機構などを備え、これらが不可分一体のものとして構成されたマスク式酸素吸入器であつて、ただ単に化学品(塩素酸ナトリウム又は発生した酸素)を容器に充てんしただけのものでないことは明らかである。
したがつて、被告商品は本件商標権の指定商品である化学品にはあたらず、薬剤、医療補助品又はこれらに類似する商品にもあたらないから、被告商品やその宣伝に被告標章を使用する行為は本件商標権の侵害とはならない。
三 以上のとおりであるから、原告の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がなく棄却を免れない。
〔編註〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。
一 請求原因
1 原告は別紙商標公報記載の商標(以下「本件商標」という)について左記の商標権(以下「本件商標権」という)を有している。
出願日 昭和四五年一二月一九日
公告日 昭和四七年一二月五日
登録日 昭和四八年一二月一日
登録番号 第一〇四四八四六号
存続期間更新登録日 昭和五八年一一月二八日
指定商品 第一類 化学品(他の類に属するものを除く)、薬剤、医療補助品
登録商標 別紙商標公報記載のとおり
2 被告は携帯用酸素吸入器(以下「被告商品」という)に別紙目録記載の標章(以下「被告標章」という)を付してこれを販売し、また、被告商品の宣伝パンフレツトに被告標章を付して展示、頒布している。
3(一) 本件商標は、片仮名「オーツー」をゴシツク体で左から右に横書きしたものである。一方、被告標章は、「O2」の右肩に片仮名で横書きされた「オーツー」の文字を組み合わせた部分(以下「被告標章前半部分」という)と、片仮名で横書きされた「パツク」の文字の部分から成り、全体として「オーツーパツク」の称呼を生ずる。
(二) 右両者を比較すると、被告標章の称呼中「オーツー」の部分は本件商標の称呼と一致する。そして、被告標章中の「パツク」は容器・包装の意味であり、被告商品が固形酸素を円筒状容器に組み入れたものであることを示す一般名称にすぎないから、被告標章の要部は被告標章前半部分である。したがつて、右要部の称呼を同一にする本件商標と被告標章は類似する。
4(一) 被告商品は、円筒状容器に化学的な酸素発生装置を組み入れ、それに吸入用マスクを付属せしめたものである。
(二) 別紙被告商品図面の被告商品の構造を一見すれば明らかなように、被告商品の本体というべき主要な構成部分は円筒状容器に組み入れられた酸素発生装置の部分であり、これに対し、酸素を吸入するための器具はその構造も極めて簡素であり、右本体部分の付属品にすぎない。
(三) 右本体部分は、固形酸素と称するクロレートキヤンドルを内蔵しており、これは酸素の化合物である塩素酸ナトリウム(NaC1O3)であつて、これが熱分解して酸素を発生し、残部は食塩となる。発生した酸素は付属のチユーブを通つて円筒状容器から外部に取り出され、吸入用酸素として使用される。そして、酸素が発生し尽くすと被告商品全体が不用となり廃棄される。
(四) してみると、被告商品は、酸素を携帯及び吸入に便利な形態で容器に収容したものである。
仮にそうでないとしても、塩素酸ナトリウムを同様容器に収容したものである。
(五) 酸素及び塩素酸ナトリウムは本件商標権の指定商品である化学品に該るからこれを収容した容器に本件商標と類似する被告標章を付して販売し、また、右容器の宣伝パンフレツトに被告標章を付して展示、頒布する被告の行為は、原告の本件商標権を侵害するものである。
5(一) 被告は、故意又は過失により本件商標権を侵害したものであるから、これによつて原告が被つた損害を賠償する責任がある。
(二) 昭和六〇年五月一日から昭和六二年一月末日までの間の被告商品の販売総額は八億三三三二万九二〇〇円であり、本件商標権の実施料は販売総額の三パーセントが相当であるから、原告は二四九九万九八七六円の損害を被つた。
6 よつて、原告は被告に対し、本件商標権に基づき、被告標章の使用の差止並びに前記損害金の内金五〇〇万円及びこれに対する不法行為の後で訴状送達の日の翌日である昭和六二年二月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1及び2の各事実は認める。
2 同3(一)の事実は認め、(二)は争う。
3 同4の事実は、(一)のうち、被告商品が円筒状容器に化学的な酸素発生装置を組み入れている点は認め、その余は否認する。
4 同5は争う。
三 被告の主張
被告商品は第一〇類の酸素吸入器に属する。被告商品は、塩素酸ナトリウムを主剤にしたローソク状の固形の酸素発生剤を、断熱材を介して本体に内蔵し、本体の一端側には、右の固形の酸素発生剤に熱反応を起こさせて酸素を発生させるための作動装置を設置し、本体の他端側の空間には、酸素出口にホースで接続されたマスクを折りたたんで格納するようにしたところの、これらが一体となつた機械的な装置である。即ち、原告も請求原因4で主張するように、被告商品は化学的酸素発生装置を円筒状容器内に組み込み、これと分離不可能に一体となつた吸入用マスク(このマスクは原告主張のような単なる付属品ではない)を格納するようにした「マスク式酸素吸入器」である。
四 被告の主張に対する原告の反論
需要者が被告商品を購入するのは酸素を必要とするからである。そして、使用時に被告商品から得られるものは酸素そのものであり、酸素が得られなくなれば被告商品は使い捨てされるものである。即ち、被告商品の本質をなすものは器具本体ではなく、そこから得られる酸素である。
被告は被告商品を酸素吸入器であると主張するが、従来、社会通念上、酸素吸入器と呼ばれているものは、酸素源である酸素ボンベから酸素を取り出して患者に吸入させるための装置であり、酸素ボンベが空になつたときは新しいボンベと取り換えて使用されるようになつているものである。
たとえ被告商品には酸素吸入器に相当する器具が一体的に設けられているとしても、実際には酸素吸入器だけでは役に立たないのであるから、被告商品の円筒状容器が前記酸素ボンベに相当する酸素容器であることに変わりはない。